第3回「すてきな造園空間 施工管理技術 作品コンクール」結果報告

第3回「すてきな造園空間 施工管理技術 作品コンクール」結果報告

 第3回「すてきな造園空間施工管理技術作品コンクール」(すてきな造園コンクール)は、2024年6月24日に行われた選考委員会の結果、応募20作品から下記の通り、7作品を入賞作として選考し、7月30日に表彰式と受賞作品技術発表会を開催しました。

第3回「すてきな造園空間 施工管理技術 作品コンクール」選考結果

【金賞】
 東京農業大学世田谷キャンパス 「かつて見られた里の景を再現」(区分:造園工事)
  三間 慎啓・髙瀬 直也・吉澤 幸平(㈱日比谷アメニス)

【銀賞】
 四季折々に表情を変える花の丘(区分:造園工事/みどり・公園管理)
    野上 一志・澤田 吏里・茂利 佳充(㈱野上緑化)

【銀賞】
 レ・ジェイドつくばの森(区分:みどり・公園管理)
  伊藤 良一・前田 瑞貴・加藤 義貴(箱根植木㈱)

【銅賞】
 筑波宇宙センターロケット広場におけるARを活用した再生プロジェクト(区分:造園工事)
  黒子 典彦・束原 正広(㈱飛鳥)、阿波田 康裕((国研)宇宙航空研究開発機構)

【銅賞】
 工場緑地既存池の再整備による生物多様性の向上と憩い空間の創出(区分:造園工事)
  西原 義治・安達 浩二(日産緑化㈱)

【銅賞】
 横須賀市個人邸 ~海岸沿いのリゾート植栽~(区分:造園工事)
  藤本 健夫・田中 伽奈子・鈴木 きみ(箱根植木㈱)

【特別賞】
 水が生まれる信濃大町・八日町ポケットパーク親水施設(区分:造園工事)
  津野尾 誠輔・堀中 一郎・西山 博臣(金森建設㈱)

講評

【金賞】 東京農業大学世田谷キャンパス 「かつて見られた里の景を再現」

                          選考委員長 近江 慶光(千葉大学 助教)
  今回は20の応募がありましたが、本作品は選考委員の満場一致で最も評価が高かかった作品であり、金賞に選ばれました。 審査に当たっては「造園技術が発揮されているか」、「顧客・利用者にとって満足のいくものか」、「現場の条件を理解した上で適切な作業が行われているか」、「造園空間として美しいものか」、「時間が経過しても維持されるものか」、「工法・技術に新規性や提案などがあるか」などについてチェックされました。 特に技術提案や新規性をどのように評価するかについては、随分と時間をかけて議論しました。 造園空間として美しく、完成度の高い応募が多くありましたが、既に一般化してきた技術については評点の差がつき難く、結果として新しい提案や新規性のある作品により高い評点が加えられたかと思います。特に上位の作品は非常に僅差での受賞となりましたが、より汎用性の高い、多くの多様な利用者に使っていただける作品が高く評価されたかと思います。 以上の点から本作品は、多様な造園空間の構成、里山の再現性など技術的に優れ、一方でレインガーデンを取り入れるなど新しい試みもあり、タイムリーとも言える作品となっています。 また、利用者の立場に立ったテラスなど、景観面と利用の面のバランスもよく、様々な利用者に高く評価されることが容易に想像でき、審査員の評点のもっとも高かった作品です。

 

【銀賞】 四季折々に表情を変える花の丘

                          選考委員 梶井 直和(一造会 フェロー)
 「このコンクールの真の狙いは何だろう?」という素朴な疑問を持っていた。
 今回審査委員として応募作品に触れてみて、その理由がはっきりと見えてきた。「造園とはなんと素晴らしい仕事なのか!」それを全国各地の仲間が写真で証明してみせてくれるからだ。各作品から応募者の声が聞こえてくる。街なかの風景に責任を持っている技術者が「この風景を見てくれ!」と胸を張って言っていること自体が素晴らしいと合点した。
 この度、金賞を受賞された「大学キャンパス かつて見られた里の景を再現」と銀賞に輝いた「四季折々に表情を変える花の丘」は、小生の事前の予想通り、ほかの審査委員各位も高く評価した。特に「四季折々に表情を変える花の丘」は、植栽管理という比較的地味な仕事に、技術者の皆様が大変楽しく取り組んでいるということが写真の向こう側から伝わってくる。応募者のメッセージにもあるが、富山の厳しい自然環境の中で、四季の変化に合わせていつも訪れる人を喜ばせるというかなり難易度の高い試みに自信をもって真っ向から挑戦している。「こんなに素晴らしい仕事がほかに有りはしない」と聞こえる。

 

【銀賞】 レ・ジェイドつくばの森

                          選考委員 芦田 浩史(独立行政法人 都市再生機構)
 本作品は、地域性を感じさせ生物多様性にも寄与する筑波山塊の地被を採り入れた景観形成と、それを維持する選択除草による維持管理の取組み、また、地域の植物の生活史を、季節感を感じさせる景観として取り込み魅せている点から、造園技術の発揮、造園景観としての美しさの面で評価され銀賞獲得となった。
 維持管理の負担を考慮すると、ともすれば画一的な樹種選択になりがちな集合住宅等の緑地において、地域の地被植物を植栽し、また移入する雑草も地域に自生する植物として許容しながら、管理毎に除草・間引き対象植物を選別し、周囲と馴染む景観を維持する作業は、造園技能として差別化できるものと言える。
 また、立ち枯れの姿を景観として魅せることとした筑波山塊の一年草については、緑地内で命を繋ぐ地域の一年草という点でもストーリー性があり、居住者の愛着を喚起するもので、年間を通して変える姿も相まって、空間に時の移ろいも感じさせる付加価値を与えるものである。
(他作品について)
 「樹高30m級!ヒマラヤスギの剪定」は惜しくも選から漏れたが、高木の剪定技術は重要であり引き続き技術者の確保、技術の継承が必要と考える。今後、建設から50年を超える集合住宅や分譲宅地が増加する中で、大きく育った樹木の管理が課題となる場面もあるだろう。人々の暮らしとともにあった樹木の処遇を決定することは、他の老朽化したインフラの更新・維持管理とは意味を異にする関心事となりうるため、適切に剪定し管理頻度を少なくしたうえで保存することを選択肢として残せることは重要である。

 

【銅賞】 筑波宇宙センターロケット広場におけるARを活用した再生プロジェクト

                          選考委員 金澤 弓子(東京農業大学 准教授)
 本作品は、老朽化したロケット広場を再生し、宇宙について学ぶ場として改めて利用者に意識してもらうためのプロジェクトとして、舗装面を改修し、太陽(タイル平板)を中央に配置、リアルに公転軌道や惑星記号を視認できるようにしたものです。また、この太陽のタイルをAR認証マーカーとしても機能させ、現実とバーチャルの両面から空間の価値向上を図った意欲作です。
 AR情報とリアルな空間の一体化という創造的な造園空間であり、実際に利用者がAR動画を楽しむ様子から、わくわくしながら体験学習できる満足度の高い空間であることが伝わる内容でした。さらに、最新技術を取り入れるだけでなく、太陽系を示すこの場所に適したタイル平板の正確な据え付け技術や、今回改修された新しい舗装部分と既存の舗装部分の自然な接続など、現場条件の理解や対処の点からも評価され、今回の銅賞受賞につながりました。
 ARを屋外の造園空間で活用する事例はまだ少なく、今回は写真の提示に限られたため、現場とAR情報がどのように対応しているのかが分かりにくいという意見もありました。技術の詳細について補足説明があると、現場のイメージがよりつかみやすくなると感じました。

 

【銅賞】 工場緑地既存池の再整備による生物多様性の向上と憩い空間の創出

                          選考副委員長 藤本 加奈子(一造会 副会長)
 本作品は再整備により生物多様性と利用価値の向上が図られたビオトープである。生物の住処となる多様な自然素材を扱い活かす技術、上流側を生物多様性ゾーン、下流側を憩いと景観ゾーンとすることで要素の異なる水景を調和させた設計、開放的なデッキ空間の整備により自然と人間との調和が図られた造園空間の美しさが高い評価に繋がった。
 欲を言えば既存動植物について、それらの一時避難生息地の確保、再利用の検討の有無、デッキ利用の実態について写真でも文章でも触れられているとより高い評価に繋がる可能性があった。
 この先この素晴らしい場をどう管理し活かすのか、更なる取り組みを含めた続報を一造会大賞の応募作品として期待したい。

 

【銅賞】 横須賀市個人邸 ~海岸沿いのリゾート植栽~

                          選考委員長 近江 慶光(千葉大学 助教)
 本作品は、リゾートという非日常空間の創出・創造を行った作品で、現場の状況を踏まえた上での丁寧な施工が高く評価され、銅賞を受賞されました。特にエントランス空間、園路(延べ段)の美しさが際立つ作品です。この空間を訪れた利用者の満足する姿が容易に想像できる作品です。
 沿岸部という当該地域の環境を把握した上でリゾートを演出するための樹種選定の的確さ、そして品質管理の素晴らしさが写真からよくわかりました。
 また、現場の背後にあるウォータースライダーなどの大きな施設・設備が景観上醜悪とならないように配慮された植栽、おさまり、修景が高く評価されました。

 

【特別賞】 水が生まれる信濃大町・八日町ポケットパーク親水施設

                          選考委員長 近江 慶光(千葉大学 助教)
 本作品は、特別賞受賞となりました。北アルプスの生み出す水資源から「水が生まれる信濃おおまち」、「水を生かした街づくり」を展開している大町市ですが、その中で本作品は幼児から小学校低学年向けの子供を対象として作られたものです。
 もともとは水飲み場・手洗い場を中心にハーブや草花、石組み等で構成されたポケットパークであったものを、水が生まれる街を象徴する親水施設として景石を再利用しつつ改修した作品です。
 全国的な酷暑ゆえにじゃぶじゃぶ池が人気ですが、本作品は安全性にも配慮し、また保護者等のためのベンチ的な空間も配置するなどの配慮も行われています。
 地域の利用者に末永く愛されるであろう空間として素晴らしい作品として高く評価しました。

  

【応募者の方々・次回応募される方々へ】

                          選考委員 松本 朗(一造会 常任相談役)
 第3回すてきな造園空間賞に応募いただきありがとうございます。また受賞された方々おめでとうございます。
 はじめにこのコンクールの発案者であり、スポンサーであったCSS技術開発創始者の高城雄三氏が1年前にお亡くなりになられたこと改めてここに記します。安らかにお眠りください。合掌
 このコンクールも回を重ねる毎に応募者も慣れてこられていて、審査時にますます差がつきにくくなってきています。
 写真だけで表すのはなかなか難しいと思いますが、そもそも「一造会大賞のエントリーが書き切れない、書き慣れておらず筆が進まない」ということから始まったコンクールなので、これはこれでよしとすべきと私は考えます。
 写真のみで表すことの限界はありますが、それでもその表現の仕方によりもっとアピール出来たのでは?という作品も多く、ここではそれについて指摘できればと思います。 
 長年管理に携わっている物件では、時間の経過がわかる写真を、と指摘してきましたが、写真のアングルが違うのか?同じ樹木かどうか分かりづらい作品がありました。それぞれ良い写真なのですが、同じアングルでないと評価が得られづらいです。
 工法をアピールした作品ではそれが我々技術者からの発案なのか?が写真では分からず評価が得られづらいものもありました。そのような作品は一造会大賞の方が評価されやすいかもしれません。
 今回多くの地方からのエントリーがあり、これは特筆すべきことだと思います。一造会大賞含め、ますます地方からのエントリーを期待します。
 造園楽し 一造会!
 皆さんますます造園を楽しみましょう!